【資料】公有水面埋立承認取消通知書 2018.8.31

沖縄県達土第 125 号 沖縄県達農第 646 号

公 有 水 面 埋 立 承 認 取 消 通 知 書

沖縄県中頭郡嘉手納町字嘉手納 290 番地9 沖縄防衛局 (局長 中嶋 浩一郎)

公有水面埋立法(大正 10 年法律第 57 号。以下「法」という。)第 42 条第3項に より準用される法第4条第1項の規定に基づき、次のとおり法第 42 条第1項による 承認を取り消します。

平成 30 年8月 31 日

沖縄県副知事 謝花 喜一郎

1 処分の内容 貴殿が受けた普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認(平成 25 年 12 月 27 日付け沖縄県指令土第 1321 号・同農第 1721 号)は、これを取り消す。

2 取消処分の理由 別紙のとおり

(教示) この決定があったことを知った日の翌日から起算して6箇月以内に、沖縄県を 被告として(訴訟において沖縄県を代表する者は、沖縄県知事となります。)、 処分の取消しの訴えを提起することができます(この決定があったことを知った 日の翌日から起算して6箇月以内であっても、この決定の日の翌日から起算して 1年を経過すると処分の取消しの訴えを提起することができなくなります。)。

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(別紙)

取消処分の理由

第1 「国土利用上適正且合理的ナルコト」(法第4条第1項第1号)の要件を充足してい ないこと 1 承認処分後の土質調査によって埋立対象区域の海底地盤が想定外の特殊な地形・地質 であることが判明したことにより「埋立地の用途に照らして適切な場所」に適合してい ないと認められること (1) 沖縄防衛局(以下、「事業者」という。)が本県に提出した公有水面埋立承認願書 (以下、「願書」という。)の添付図書―2設計概要説明書(以下「設計概要説明書」と いう。 )においては、普天間飛行場代替施設建設事業(以下、「本件埋立事業」という。) におけるC護岸計画箇所の地盤の土質条件、設計土層が示され、また、公有水面埋立 承認の審査における本県の質問に対し、事業者は、「液状化の可能性は低いものと判 断した。また、地盤の圧密沈下に関しては、地層断面図に示す通り、計画地の直下に は圧密沈下を生じるような粘性土層は確認されていないため、圧密沈下は生じないも のと想定しています。」と回答し、平成 25 年 12 月 27 日付け公有水面埋立承認処分(平 成 25 年 12 月 27 日付け沖縄県指令土第 1321 号、沖縄県指令農第 1721 号。以下、「本 件承認処分」という。)は、この設計概要説明書の記載や事業者の回答に示された土 質等を前提になされたものである。 しかし、本件承認処分後の土質調査によって、C護岸計画箇所の地形・地質は承認 時に想定されていなかった特殊な地形・地質であることが明らかとなっており、非常 に緩い砂質土又は非常に軟らかい粘性土のため地盤の液状化の危険性や当該箇所に護 岸等を構築した場合には圧密等による沈下等が生じる可能性があるものと認められ る。 また、本件埋立事業が行われる辺野古崎・大浦湾は、国内でもここでしか見られな いきわめて特徴的な生態系を有しているものであるが、海底の地盤の改良工事をする となれば、工事に起因する濁り等によりサンゴ類をはじめとする海域生物等の生育に 影響を与えることになる。 さらに、承認時に想定されていなかった特殊な地形・地質であることが明らかとなっ たことにより、普天間飛行場代替施設(以下、「辺野古新基地」という。)の建設に は、本件埋立承認時には想定されていなかった工事を要することになるものと認めら れ、辺野古新基地建設による普天間飛行場からの移駐は早期にはなしえないことにな るものと認められる。 本件承認処分後に判明した上記事実よりすれば、公有水面埋立承認審査基準の「埋 立をしようとする場所は、埋立地の用途に照らして適切な場所と言えるか」に適合せ ず、本件埋立事業については「国土利用上適正且合理的ナルコト」の要件を充足して いないと認められるに至っており、本件承認処分の効力を維持することが公益に適合 しない状態が生じているものである。 (2) これに対し、事業者は、ボーリング調査の結果等を踏まえて総合的に判断した上で、 実施設計や環境保全対策等の検討を行い、沖縄県と協議したいと考えており、検討結 果の報告や協議することなしに工事を進めることは考えていないと主張する。 しかし、土質調査の結果、本件承認処分時には想定されていなかった特殊な地形・ 地質であることが明らかとなっており、かかる場所を選定すること自体が「埋立をし ようとする場所は、埋立地の用途に照らして適切な場所と言えるか」に適合しないと 判断されるものである。また、安全性や環境への影響等は工事の総体を検討しなけれ ば確認することはできないにも関わらず、事業者は、全体の実施設計を示して協議を 行うことなく工事着工を強行し、本県が再三にわたって工事を停止して全体の実施設 計を示して協議をすることを指導しても、この行政指導に従わないという意思を明示 して工事を強行し続け、工事全体についての実施設計を示さないのであるから、設計

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の概要に従って要件充足の判断をすることは当然である。そして、設計の概要に従っ て護岸を構築しようとするならば、C護岸の安全性は認められないのであるから、設 計の概要にしたがって工事を完成させることはできないものと認められ、また、仮に、 抜本的な設計変更をすることにより工事を完成させることができたとしても、軟弱地 盤対策工事等による環境への影響や工期の長期化が生じること自体は否定できないも のであるから、このことよりも、「埋立をしようとする場所は、埋立地の用途に照ら して適切な場所と言えるか」に適合しないと認められる。 以上のとおり、事業者の主張には理由がない。

2 本件承認処分後の土質調査の結果等より埋立区域の海底に活断層が存在しているとの 指摘がなされていることから「埋立地の用途に照らして適切な場所」に適合していない と認められること (1) 埋立区域付近の陸上には、辺野古断層という活断層が存在することが文献において 示され(遅沢壮一=渡邊康志『名護・やんばるの地質』2011)、辺野古断層を海に延 長していくと、その延長上の海底に谷地形または谷側壁の急斜面(以下、このような 地形を「海底谷地形」という。)が延びていることが認められるところ、本件埋立事 業は、この海底谷地形の箇所の直上に飛行場滑走路等の施設を建設するものであるが、 本件承認処分の後に、地質学者である加藤祐三琉球大学名誉教授(以下「加藤名誉教授」 という。)は、埋立対象区域の海底谷地形は活断層の位置を示していると推定されると 指摘し、また、前掲『名護・やんばるの地質』の著者である遅沢壮一(以下「遅沢氏」 という。)は、上記海底谷地形は活断層であると認められるとの判断を示している。 活断層の存在が指摘されている箇所を海兵隊飛行場建設のための埋立地場所として 選定することは、公有水面埋立承認審査基準の「埋立をしようとする場所は、埋立地 の用途に照らして適切な場所と言えるか」に適合せず、海兵隊飛行場である辺野古新 基地を建設するために辺野古沿岸を埋め立てることは「国土利用上適正且合理的ナル コト」の要件を充足していないと認められるに至っており、本件承認処分の効力を維 持することが公益に適合しない状態が生じている。 (2) これに対し、事業者は、既存の文献(『活断層データベース』、『活断層詳細デジ タルマップ』)では、辺野古断層を活断層として扱っていないと主張する。 しかし、『活断層データベース』については、活断層が存在していても長さ 10km 未満の場合は収録していないところ、『名護・やんばるの地質』の地質図上で辺野古 断層は長さ 8.5km(中略)であり 10km に達しておらず同文献に収録する基準に達し ていないのであるから、同文献に辺野古断層が活断層として記載されていないことは、 同断層が活断層であることを否定する論拠とはならない。また、『活断層詳細デジタ ルマップ』では、地表で活断層の存在が露頭で確認されてもこれに対応する地形が認 められない場合は活断層と認定していないのであるから、この文献では活断層が存在 していても表示されない場合がある。以上のとおり、両文献では活断層が確認されて も全てが記載されているわけではないのであるから、両文献に記載されていないこと を根拠に活断層の存在を否定することはできないものであり、事業者の主張には理由 がない。 また、事業者は、上記海底谷地形が活断層であることについての加藤名誉教授の推 定を理解困難とし、また遅沢氏の判断について根拠不明であると主張する。しかし、 加藤名誉教授の前記意見書に示された推認過程は具体的根拠に基づいた論理的なもの と認められ、また、遅沢氏は、辺野古断層の調査等により得た知見及び本件承認処分 後になされた土質調査による音波探査の断面図とボーリング試料等に基づいたものと して判断を示しているものであるから根拠不明ということはできず、地質の専門家が 具体的な根拠に基づいて活断層の存在を指摘しているものと認められるものであり、 この点についても事業者の主張には理由がない。

3 米国防総省の統一施設基準書「飛行場・ヘリポートの計画と設計(UFC3-260-01)」

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(2008 年 11 月更新。以下「統一基準」という。)では、航空機の安全な航行を目的と して、飛行場の周辺空間に進入表面、水平表面等の高さ制限(以下「高さ制限」という。) を設定しているところ、水平表面の高さ制限に関しては、滑走路の中心から半径 2,286 メートルの範囲に、滑走路から上空 45.72 メートルで設定されている。辺野古新基地の 滑走路は、標高に換算すれば約 8.8 メートルとなることから、標高約 54.52 メートルを 超える範囲に高さ制限が設定されることとなるが、辺野古新基地が完成して海兵隊飛行 場として供用された場合には、国立沖縄工業高等専門学校の校舎、米軍辺野古弾薬庫地 区内の弾薬倉庫、通信事業者及び沖縄電力の鉄塔、久辺小・中学校をはじめとする公共 建築物、周辺地域の民家やマンション等が高さ制限に抵触する。 統一基準の高さ制限に抵触する既存建物等が周辺に所在する場所を飛行場建設のため に埋立対象地として選定をすることは、公有水面埋立承認審査基準の「埋立をしようと する場所は、埋立地の用途に照らして適切な場所と言えるか」に適合せず、海兵隊飛行 場である辺野古新基地を建設するために辺野古沿岸を埋立てることは「国土利用上適正 且合理的ナルコト」の要件を充足していないと認められる。 この点、事業者も高さ制限に抵触する建築物等があることは否定するものではなく、 ただ、統一基準の適用除外に適合すると考えていると説明するものである。しかしなが ら、水平表面に係る高さ制限は、旋回飛行等、低空飛行をする航空機の安全を確保し、 航空機が安全に離着陸するために設けられているところ、高さ制限に抵触する建築物が あることは、住民の側からみれば、航空機の安全な航行を阻害する恐れのある建築物等 があり、統一基準の適用除外に適合することとなったとしても、常に、航空機事故等に よる住民への被害が発生する危険性をはらんでいることを否定しうるものではない。

4 辺野古新基地が完成しても統合計画における返還条件が満たされなければ普天間飛行 場は返還されないことが明らかになったことにより「埋立地の用途に照らして適切な場 所」「埋立の動機となった土地利用に公有水面を廃止するに足る価値」に適合していな いと認められること 平成 29 年6月6日の参議院外交防衛委員会において、稲田朋美防衛大臣は「緊急時に おける民間施設の使用の改善について、現時点で具体的な内容に決まったものがないた め、米側との間で協議、調整をしていくこととしております。そして、御指摘のその懇 談会における防衛省職員の説明、このような具体的な内容について、米側との協議によ ることを前提として、普天間飛行場の返還のためには、緊急時における民間施設の使用 の改善を含む返還条件が満たされる必要があるということを述べたものでございます。 仮に、この点について今後米側との具体的な協議やその内容に基づく調整が整わない、 このようなことがあれば、返還条件が整わず、普天間飛行場の返還がなされないことに なります」と答弁し、辺野古新基地が完成しても他の返還条件が整わなければ普天間飛 行場が返還されないことが明らかにされた。 事業者は、公有水面埋立承認願書添付図書―1埋立必要理由書(以下、「埋立必要理 由書」という。)において、県内では辺野古への移設以外に選択肢がないことについて の理由の一つとして、「滑走路を含め、所要の地積が確保できること」を挙げていたも のであるが、米会計検査院の報告書で滑走路長が短いことは機能上の欠陥であるとされ ていること、及び、防衛大臣が「民間施設の使用の改善」の返還条件も整わなければ普 天間飛行場は返還されないと答弁したことより、辺野古新基地建設では「滑走路を含め、 所要の地積が確保」できないことが明らかとなっており、この本件承認処分後に判明し た事実よりすれば、「埋立てをしようとする場所が、埋立地の用途に照らして適切な場 所といえるか。」及び「埋立ての動機となった土地利用に当該公有水面を廃止するに足 る価値があると認められるか。」という公有水面埋立承認の「埋立ての必要性」にかか る審査基準に適合していないと認められる。 また、辺野古新基地が建設されても「民間施設の使用の改善」の返還条件が整わなけ れば普天間飛行場は返還されないということより、埋立必要理由書で「国外、県外への 移設が適切ではないことについて」の根拠とされた「普天間飛行場の危険性を早期に除

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去する必要があり、極力短期間で移設できる案が望ましいこと」との理由が成り立たな いことが明らかとなっており、このことからも、「埋立ての動機となった土地利用に当 該公有水面を廃止するに足る価値があると認められるか。」に適合していないものと認 められる。 以上のとおり、米会計検査院の報告及び稲田防衛大臣による返還条件が満たされなけ れば普天間飛行場は返還されない旨の国会答弁によって、埋立必要理由書に示された辺 野古新基地の埋立理由が成り立っていないことが明らかとなったものである。辺野古新 基地建設は沖縄への過重な基地負担を将来にわたって固定するもので沖縄県の国土利用 の重大な阻害要因となるものであること、埋立対象である辺野古沿岸海域は代替性のな い貴重な自然的価値を有すること、沖縄県の民意は辺野古新基地建設のための公有水面 埋立に反対していること、完成までにどれだけの年数を要するのかも定かではない辺野 古新基地建設はその間は普天間飛行場を事実上固定化するものであることなどの様々な 問題が存し、他方で、普天間飛行場に駐留している部隊の沖縄駐留の必然性は認められ ないものであって移駐先が沖縄県内であることに必然性は認められないことよりすれ ば、本件承認処分後に埋立必要理由書に示された埋立必要理由が成り立たなくなったこ とが判明したことにより、海兵隊飛行場である辺野古新基地を建設するために辺野古沿 岸を埋立てることは「国土利用上適正且合理的ナルコト」の要件を充足していないと認 められる。 この点、事業者は、「同飛行場の返還が実現するよう取り組んでおり、辺野古移設完 了後も同飛行場が返還されないという状況は想定できません。」と述べるが、具体的に どのような取組がなされているのか、明らかではなく、むしろ「緊急時における民間施 設の使用の改善」については、現時点で何らの調整もなされていないし、今後それが実 現することができることの具体的な論拠も不明である。 なお、返還条件については、本件埋立承認以前から公になっているものではあるが、 その条件が満たされなければ、普天閒代替基地が完成しても、普天閒は返還されないこ とは、稲田防衛大臣の答弁によって、明らかになったものである。

第2 本件承認処分に付された負担である留意事項1の不履行 1 本件承認処分に付された附款(負担)である留意事項の第1項(以下「留意事項1」 という。)は、「工事の施工について 工事の実施設計について事前に県と協議を行う こと。」としているが、事業者は、工事の実施設計について事前に協議を行うことなく、 平成 29 年2月7日に汚濁防止膜設置に係る海上工事に着工、同年4月 25 日に護岸工事 に着工し、留意事項1に違反(負担の不履行)をしたものと認められる。 2 これに対し、事業者は、①国に対する承認には、法第 32 条の「埋立てに関する法令 による免許その他の処分の条件に違反したときは、免許を取り消す」旨の規定は準用さ れていないことから、法制上、承認に付された条件違反を理由として承認を取り消すこ とまでは想定されておらず、仮に、一般法理に基づく撤回権を行使する場合であっても、 その行使は制限されるべきものである、②実施設計協議を行わずに工事に着手すること は考えておらず、「災害防止二付十分配慮」の要件を充足していないような工事を行っ たことは一切ないと主張する。 しかし、免許の取消しについて定めた法第 32 条が国に対する承認に準用されていな いことは、一般法理に基づく取消処分を否定するものではない。行政処分をした行政庁 が自らその行政処分を取り消す場合について、講学上の概念としては、職権取消しと後 発的事情を理由とする撤回に区別されるが、処分要件の原始的瑕疵と後発的瑕疵のいず れについても、当該処分が効力を保持している状態は違法であるとしてその効力を覆滅 させて適法状態を回復するものであり、両者は同質の行為であるところ、最高裁平成 28 年 12 月 20 日判決・民集 70 巻 9 号 2281 頁も、埋立承認処分に瑕疵(違法及び不当) があれば、職権取消しの根拠規定がなくとも処分庁たる沖縄県知事は、これを職権で取 り消すことができることを前提とした判示を行ったものであり、撤回についても同様で

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あると解される。なお、国(国土交通大臣)は、「一般的には,行政庁は明文の規定が なくとも,埋立承認に瑕疵がある場合や事後的に公益違反の状態が生じた場合には職権 による取消し又は撤回を行うことができると解されるから,いうまでもなく,このよう な一般法理に基づく職権取消し又は撤回は,国に対する『承認』であっても,私人に対 する『免許』であっても可能であると解される。」(平成 28 年 2 月 12 日付けの平成 28 年(行ケ)第1号地方自治法第 251 条の5に基づく違法な国の関与の取消請求事件 における被告国土交通大臣答弁書)との見解を示している。そして、取消処分について の個別規定が定められていない場合に行政処分の相手方による義務違反行為がある場合 にも、許認可等を受けた授益的行政処分の相手方によって当該許認可等に係る違法状態 が惹起されているのであるから、かかる違法状態を解消し、あるいはその再発を防止す る許認可等の取消処分(撤回)は、法律による行政の原理に基礎づけられて、処分根拠 法規を根拠としてなしうるものである。 また、留意事項1は、最終的な実施設計が承認要件に適合するものであるかを確認す る趣旨で、免許の場合における免許条件に準じて付したものであって、当該事前協議は 最終的な実施設計が承認要件に適合するものであるかを確認するものであり、埋立てに 関する工事は、実施設計協議の結果、承認の処分要件が充足をしていることを確認した 後でなければ着手することは認められないものである。そして、最終的な実施設計が承 認の処分要件に適合するものであるかを確認するためには、全体の実施設計を検討・確 認しなければ安全性等を確認することはできないのであるから、護岸の全体についての 実施設計が示されなければならない。そして、全体の実施設計を示して協議をすること なく工事着工が強行されたものであるが、第3、1において示すとおり、設計の概要に 従って護岸を構築するならばC護岸の安全性を認めることはできないものである。 そして、本県は、留意事項1を遵守するように行政指導を繰り返してきたにもかかわ らず、事業者はこれに応じないで工事を続行し続けてきたものであり、行政指導に従っ て留意事項1を遵守する意思がないことは客観的にも明白であるから、留意事項1違反 について取消処分に及ぶことはやむを得ないものと認められる。

第3 「災害防止ニ付十分配慮」(法第4条第1項第2号)の要件を充足していないこと 1 本件承認処分後の土質調査で想定外の地形・地質であることが判明したことにより「埋 立地の護岸の構造が…災害防止に十分配慮」、「埋立区域の場所の選定…海底地盤…の 地盤改良等の工事方法等に関して、埋立地をその用途に従って利用するのに適した地盤 となるよう災害防止につき十分配慮」に適合していないと認められること (1) 護岸等の構築物は、地盤によって支えられているのであるから、地盤が構築物を支 えることができないのであれば安全性を認められないことは当然である。そして、本 件承認処分にかかる審査においては、設計概要説明書に記載された地形・地質、設計 概要及び安定計算結果等並びに地盤の液状化及び沈下の可能性についての本県の質問 に対する事業者の回答を前提として、審査基準適合性の判断をし、「埋立地の護岸等 の構造は、滑動、転倒及び支持力などの安定計算が行われ、技術基準に適合しており、 災害防止に十分配慮されている」、「埋立区域の液状化の有無を評価し、対策が必要 な個所では実績のある工法により地盤改良が計画されているため、埋立地をその用途 に従って利用するのに適した地盤となるよう対策が講じられているものと考えられ、 災害防止につき十分配慮している」と判断して、審査基準適合性を認めたものである。
しかし、本件承認処分後になされた土質調査の結果では、「C-1護岸~C-3護 岸計画箇所付近において,当初想定されていないような特徴的な地形・地質が確認さ れた。その特徴を概観すると,海底より大きく隆起した地形を取り囲むように,大き く凹んだ谷地形が形成されている(中略)谷地形(B-26,B-28)の地層は,非常 に緩い・軟らかい谷埋堆積物(砂質土,粘性土)が層厚 40mと非常に厚く堆積し(中 略)特殊な地形・地質が形成されたものと考えられる。前述したように,C-1護岸 計画箇所付近には大きく凹む谷地形が形成されており,そこには非常に緩い・軟らか い谷埋堆積物である砂質土,粘性土が堆積している。N値は,上位の砂質土 Avf2-s1

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層で 0~18(平均 5.4),下位の粘性土 Avf2-c1 層で 0~13(平均 1.6)を示し,N値 0 を示すものも多い。以上のことから,特に当該地においては,構造物の安定,地盤 の圧密沈下,地盤の液状化の詳細検討を行うことが必須」とされ、また、C―3護岸 計画箇所付近は、上層が、13.5mまでが非常に軟らかい粘性土であり、設計概要説明 書とは、地形・土質がまったく異なることが明らかとなっている。 以上の本件承認処分後の土質調査により判明した特殊な地形・地質等よりすれば、 地盤の液状化や圧密等による沈下等の危険性が認められ、また、設計概要説明書に示 された安定計算の前提が覆滅しているものと認められる。 以上より、公有水面埋立承認審査基準の「埋立地の護岸の構造が…災害防止に十分 配慮」「埋立区域の場所の選定…海底地盤…の地盤改良等の工事方法等に関して、埋 立地をその用途に従って利用するのに適した地盤となるよう災害防止につき十分配 慮」に適合していないものであり、「災害防止ニ付十分配慮」の要件を充足していな いと認められ、本件承認処分の効力を存続させることが公益に適合しない状態が生じ ているものである。 (2) これに対し、事業者は、地盤の強度等についてはボーリング調査の結果等を踏まえ 総合的に判断することとしているが、現時点ではそれらの材料が出そろっていないと 主張する。 しかし、安定計算の結果が技術的基準に適合していることが「災害防止ニ付十分配 慮」の要件充足という判断の前提とされたものであるところ、土質調査の結果、設計 概要説明書に記載された土質条件・設計土層等は実際とは異なるもので安定計算の前 提が覆滅しており、また、液状化の判断の要素となる砂質土のN値(N値が低いとい うことは地盤が緩く液状化しやすいことになる。)について説明書の土質条件ではN 値 11 とされているところ実際はN値0も多数みられることが明らかとなっており、 「埋立地の護岸等の構造は、滑動、転倒及び支持力などの安定計算が行われ、技術基 準に適合しており、災害防止に十分配慮されている」、「埋立区域の液状化の有無を 評価し、対策が必要な個所では実績のある工法により地盤改良が計画されているため、 埋立地をその用途に従って利用するのに適した地盤となるよう対策が講じられている ものと考えられ、災害防止につき十分配慮している」とした本件埋立承認時の判断の 前提が覆滅していることは明らかである。「災害防止ニ付十分配慮」という要件は、 当該埋立に関する工事の総体について判断されるものであり、対象区域を区分して、 区分された箇所ごとに要件充足を判断するものではない。設計の概要で工事の総体が 示されているものであり、C護岸について安全性を確認できないことが判明した以上、 「災害防止ニ付十分配慮」という要件を充足していないと認められることは当然であ る。 なお、工事の一部についてのみ実施設計を示していても、実施設計が示されていな い箇所の安全性の判断とはならないことは当然であるし、また、他の箇所の実施設計 では安全性が認められない場合や大幅な設計変更がなされた場合の影響も判断するこ とはできないのであり、工事の全体を示した実施設計が示されていない段階では、設 計の概要が判断の対象となることは当然である。

2 本件承認処分後の土質調査の結果等から埋立区域の海底に活断層が存在していると指 摘され「埋立区域の場所の選定(中略)に関して、埋立地をその用途に従って利用する のに適した地盤となるよう災害防止につき十分配慮」に適合していないと認められるこ と (1) 本件承認処分後に、辺野古新基地の滑走路建設が予定されている海底に活断層の存 在が地質学者から指摘され、その活断層のもたらす災害のリスクについて、遅沢氏は、 滑走路を横切る段差が生ずる恐れ等を指摘し、加藤名誉教授は、「大浦湾には活断層 と推定される谷地形が存在し、それが基地建設予定地の下を走っている。したがって この断層が活動したとき、基地建設を行ったがゆえの深刻かつ重大な被害が発生す る。」と指摘している。

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地質学者らよりかかる指摘を受けている場所を埋立区域として選定することは、 「埋立区域の場所の選定(中略)に関して、埋立地をその用途に従って利用するのに 適した地盤となるよう災害防止につき十分配慮しているか」とする公有水面埋立承認 の審査基準に適合していないもので、「災害防止ニ付十分配慮」の要件を充足してい ないと認められ、本件承認処分の効力を存続させることが公益に適合しない状態が生 じているものである。 (2) これに対し、事業者は、既存の文献(『活断層データベース』、『活断層詳細デジ タルマップ』)では、辺野古断層を活断層として扱っておらず、辺野古沿岸域におけ る活断層の存在を示す記載はないと主張する。 しかし、第1、2(2)で述べたとおり両文献において活断層として扱われていないこ とは辺野古断層が活断層であることを否定する論拠とならないものであり、また、両 文献では、陸域の活断層のみが示され、海底の活断層が調査対象とされているのか不 明であることからしても、辺野古断層及び海底谷地形が活断層ではないと結論付ける ことはできないものであり、事業者の主張には理由がない。

第4 「環境保全ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」(法第4条第1項第2号)の要件 を充足していないこと 1 埋立全体の実施設計に基づき詳細検討した環境保全対策等について協議を行わずに工 事に着手し、留意事項2に違反していること 本件埋立承認処分に付された附款(負担)である留意事項の第2項(以下「留意事項 2」という。)は、「工事中の環境保全対策等について 実施設計に基づき環境保全対 策、環境監視調査及び事後調査などについて詳細検討し県と協議を行うこと。なお、詳 細検討及び対策等の実施にあたっては、各分野の専門家・有識者から構成される環境監 視等委員会(仮称)を設置し助言を受けるとともに、特に、外来生物の侵入防止対策、 ジュゴン、ウミガメ等海生生物の保護対策の実施について万全を期すこと。また、これ らの実施状況について県及び関係市町村に報告すること。」としているが、この留意事 項は、環境保全対策等について、本件承認処分時の環境保全図書における具体性及び実 効性のある対策等の提示を先送りした部分について、確実に担保するために附したもの である。 本件承認処分時における審査結果では、審査基準に照らし、「護岸、その他の工作物 の施工において」、「埋立てに用いる土砂等の性質に対応して」、「埋立土砂等の採取・ 運搬及び投入において」、及び「埋立てにより水面が陸地化することにおいて」、いず れも「別添資料(引用注:すなわち事業者による環境保全図書の記載に基づく環境保全 措置)のとおり、現段階で取り得ると考えられる工法、環境保全措置及び対策が講じら れていることから、環境保全に十分配慮した対策がとられていると認められる。」とし て要件適合を認めつつも、「なお、これらの工法、対策等を確実に実施させるためには、 留意事項を附すことが望ましい。」としている。留意事項2は、これに基づいて附され た負担であって、その実施は、事業の実施継続にあたって、要件適合を充足するために 必要なものである。 事業者は、工事中の環境保全対策等について、一部の護岸だけの影響として検討する のでなく、連続した一体の護岸全体による環境影響に対して環境保全対策等を検討すべ きであり、留意事項2に基づく事前協議を行うためには、護岸全体を含む埋立全体の実 施設計に基づき詳細検討した環境保全対策等の提出が必要であるところ、一部の護岸の 実施設計に基づいて一方的に環境保全対策等を策定し、留意事項2に基づく事前協議は 終了したとして(平成 27 年 10 月 28 日付け沖防調第 4759 号)工事に着手しており(平 成 27 年 10 月 28 日付け沖防調第 4758 号工事着手届書)、留意事項2に違反したと認め られるものである。 留意事項2に違反し、埋立全体の実施設計に基づき詳細検討した環境保全対策等につ いて協議をしないことにより、本件承認処分時にその限度で示された環境保全措置及び 対策を事業実施段階において具体化して確実に実施することで「環境保全…ニ十分配慮」

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を図ることができなくなっていることから、同要件の不充足が認められる。

2 サンゴ類に関して、本件承認処分後に策定した環境保全措置が適切でないこと 事業者が本件承認処分後にサンゴ類について策定している具体的な環境保全措置につ いては、以下の点が不適切であり、事業実施区域周辺海域におけるサンゴ類の保全に支 障が生じるおそれがある。 (1) 移植優先順位等といった環境監視等委員会からの指摘も含め、工事の詳細な工程表 と各環境保全措置の実施期間を重ねた表を作成提出していないこと サンゴ類の移植・移築について事業実施前になすべきであるが、仮に工事と平行し て移植作業を実施するとしても、当該工事により周辺への汚濁の拡散が懸念されるこ とから、これら各工事時期と移植・移築作業時期は予め明確にしてその環境保全措置 が適切であることを確認することが求められる。さらに、第4回環境監視等委員会に おいては、「移植にかかる期間や、時間が短くなった場合の優先順位などは確立して いるのか。」との指摘がなされているとおり、それらの移植作業について随時適切な 対応が図られることが計画されていなければならない。 これに対して事業者は、サンゴ類の移植時期について、「具体的には、サンゴ類が 分布する海域での護岸等工事の着手までに実施することとしておりますが、明確な移 植時期は、当該護岸等工事の具体の計画を踏まえて決定されることになり、現時点に おいて明確なものは決まっていない」とするのみであり(平成 29 年4月 14 日付け沖 防調第 2225 号)、事前に詳細な工程とこれに対応する環境保全措置の実施期間と内容 を明らかにしていない。 本件では、事業者は、護岸工事に伴うサンゴ類の生息環境に影響がないということ について、環境監視等委員会に説明し、特段の指導・助言がないことを確認の上、護 岸工事に着手していると主張するが、上記のように「現時点において明確なものは決 まっていない」としているほか、その時点で示すことができるものを回答しているだ けであって、事前に詳細な工程とこれに対応する環境保全措置の実施期間と内容を明 らかにしていないのであるから、事業者の主張には理由がない。

(2) 移植・移築元の範囲を、「水深 20m 以浅の範囲」としていること、及び移植・移築 対象のサンゴを、「小型サンゴ:総被度5%以上で 0.2ha 以上の規模を持つ分布域の 中にある長径 10cm 以上のサンゴ類」としていること 事業者は、サンゴ類の移植・移築にあたり、移植・移築元の範囲を「水深 20m 以浅 の範囲」としているところ、水深 20m以深のサンゴ類が移植・移築されないことに懸 念がある。事業者による移植・移築対象のサンゴ類の選定基準や内容が妥当なもので あるかについて確認することができず、環境保全対策として十分であることが確認で きない。 本県は、専門家の意見等を根拠として、事業者による移植・移築対象のサンゴ類の 選定基準等の根拠について確認することができないと指摘したものであるが、事業者 は、環境監視等委員会の委員からは特段の指導・助言はなかったと主張するにとどま り、移植・移築対象のサンゴ類の選定基準等の根拠についての説明は行われておらず、 事業者の主張には理由がない。

(3) 移植先の選定に問題があること サンゴ類の移植・移築先に関する問題につき、環境監視等委員会委員より「移植・ 移築先においては、元の分布域との潮流の違いや、美謝川からの淡水流入時の影響に ついても考える必要がある。」との指摘が為されたのに対し、事業者は、「サンゴの 移植・移築先の選定に当たっては、有識者研究会でのご意見も踏まえて、現状の分布 域に加え、これまでサンゴが生息していた場所もポテンシャル域として勘案し、波当 たりの状況や濁りに関するシミュレーション結果も踏まえて検討している。」として いるが、淡水流入時の影響を踏まえて検討を行ったのかが不明であり、環境保全対策

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としてのサンゴ類の移植・移築の安全性が確認できない。 この点、事業者は、沖縄県に対し特別採捕許可を申請したサンゴ類のうち、同県知 事から特別採捕許可を得たサンゴ類については、その移植先に問題がないことは、同 県において理解いただけているものと考えていると主張する。 しかし、事業者の主張は、公有水面埋立法とは目的が異なり、水産資源の保護培養 を目的とする沖縄県漁業調整規則に基づいて、個別のサンゴ類の移植先の選定につい て、本県から特別採捕許可を得られたというものであって、公有水面埋立承認に基づ く本件事業に関するサンゴ類の環境保全対策が適当かどうかということとは異なる問 題であり、淡水流入時の影響を踏まえて検討を行ったのか示していることにはならな い。 事業者は、淡水流入時の影響を踏まえて検討を行ったのか示しておらず、事業者の 主張には理由がない。

(4) 未記載種やレッドリストサンゴの環境保全措置が不十分であること 本県は、事業者に対し、未記載種であるサンゴ類について、その調査や保全策に ついて明らかにするよう再三事業者に求めたが、事業者は、検討中である、今後環境 監視等委員会の指導・助言を受ける、等と回答するにとどまっていた。平成 29 年3月 17 日に環境省が「海洋生物レッドリスト」を公表し、評価書に記載された確認種のう ち、サンゴ類5種が、新たに貴重な種に該当したことから、本県は、該当種の生息場 所や移植予定について照会を行ったが(平成 29 年4月 21 日付け土海第4号)、事業 者は「追って答える」として回答を行わず(平成 29 年4月 24 日付け沖防調第 2320 号)、平成 29 年4月 25 日、護岸工事に着工した。その後も本県は、レッドリストサ ンゴの生息場所や移植予定について照会を行うとともに、レッドリストサンゴについ ては事業者が設定した移植・移築対象の基準を満たしていなくとも移植を検討すべき であることを通知し、事業者が護岸工事を強行していることから、これらについて早 急に回答するよう求め、併せて護岸工事の停止を求めてきた(平成 29 年5月8日付け 土海第 73 号、平成 29 年7月 10 日付け土海第 213 号、平成 29 年8月 25 日付け土海第 370 号)。これに対して、事業者は、レッドリストサンゴの取扱いについては検討中 であることを繰り返すばかりで、本県に対して生息場所等調査の実施の有無、調査の 現状や調査結果を報告することは一切なかった(平成 29 年7月 25 日付け土沖防調第 3965 号、平成 29 年9月8日付け沖防調第 4590 号)。このような中で、平成 29 年9 月 27 日に行われた第9回環境監視等委員会に、事業者は突如としてレッドリストサン ゴの調査・確認結果を提出し、本県が照会を繰り返し行っていた平成 29 年7月の時点 では、既に調査を開始していたにもかかわらず、承認権者である本県へ報告を行って いなかったことが明らかとなった。また、当該調査・確認結果においては、平成 29 年7月5日から同月 22 日にかけてレッドリストサンゴ 14 群体(オキナワハマサンゴ 2群体、ヒメサンゴ 12 群体)が確認されたが、同年8月 18 日の調査において、6群 体(オキナワハマサンゴ1群体、ヒメサンゴ5群体)が死亡し、6群体が消失してい ることが確認された。同年9月1日の調査では、ヒメサンゴ1群体の死亡が確認され ている(第9回環境監視等委員会資料2)。 事業者は、これらレッドリストサンゴを7月に確認後、直ちに工事を停止して本県 へ報告し、移植の要否等の保全対策を本県と協議すべきだったのであって、それを行 わなかった。レッドリストサンゴ 13 群体が死亡、消失したことが事業者の工事の影響 ではないとは言えず、レッドリストサンゴに対する環境保全策が十分になされている とはいえない。 その後、事業者はレッドリストサンゴを移植・移築対象とする保全対策を策定し、 確認された 11 群体(オキナワハマサンゴ9群体、ヒメサンゴ2群体)を移植対象とし た。そのうち辺野古崎前面のK-4護岸付近に存在するヒメサンゴ1群体については、 事業者は移植を行うため、沖縄県漁業調整規則に基づくサンゴ類の特別採補許可申請 を沖縄県知事に一度行っているが(平成 30 年1月 24 日付け沖防第 263 号 特別採補許

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可申請書)、これが移植先の選定が適当でないことを理由として不許可とされた後(平 成 30 年3月9日付け農水第 2503 号 特別採補許可申請の不許可について)、汚濁防止 枠を四重に設置する等の施工方法を採用すれば、護岸工事の影響を及ぼすことなくヒ メサンゴを残置したまま護岸工事を施工することが可能として、恣意的に移植対象か ら除外した(第 14 回環境監視等委員会資料 2-1)。しかし、汚濁防止枠の構造や効果、 水の濁りのシミュレーション結果等は本県に示されず、護岸工事によるヒメサンゴへ の影響がないとは言えない。また、埋立工事の際にヒメサンゴが消失する等の直接的 な影響がないとしても、護岸の完成後は、ヒメサンゴからわずか 41mの場所に護岸が 存在し続けるのであるから、施設の存在・供用時の影響も踏まえて移植の要否を検討 すべきところ、これらの検討はなされておらず、施設の存在・供用後は潮流の変化に 伴う流速の変化、海水温の変化、栄養塩量の変化や底質の変化(砂の堆積、粒度分布 の変化)により、ヒメサンゴに影響を与える可能性がある。また、護岸の存在によっ て水流の幅が狭められることによって水流が速くなり、ヒメサンゴが露出し、魚など による食害のおそれも考えられる。 以上のとおり、これらの種に対する環境保全対策が十分になされているとはいえな い。 事業者は、レッドリストサンゴ13群体については、サンゴ類に影響のある工事を行っ ていなかったため、工事の影響により死亡するなどしたものではないと考えており、 その旨は、同年9月 27 日に実施した第 9 回環境監視等委員会においても報告した上 で、沖縄県に対しても説明してきたと主張するが、レッドリストサンゴ 13 群体が死 亡、消失したことが事業者の工事の影響ではないとする具体的な根拠を示していない。
また、事業者は、辺野古側のヒメサンゴについては、シミュレーションの結果、護 岸工事に伴う水の濁りの影響が環境保全目標値の2mg/L に及ばないように施工する ことが可能であるとの結果が得られたことから、施工方法を見直した上で、当該ヒメ サンゴを移植せずに当該場所に残置することとしたこと、実際の施工に当たっては、 工事中の水の濁り等について継続的にモニタリング調査を行っており、護岸工事によ る当該サンゴへの影響はなく、当該サンゴの生息環境は維持されていることを確認し ていることや、このことについては、環境監視等委員会でも指導・助言を得た上で、 沖縄県に対しても説明したことを主張するが、工事中の水の濁り等による影響の有無 について述べるにとどまり、本県がいう潮流の変化に伴う流速の変化、海水温の変化、 栄養塩量の変化や底質の変化(砂の堆積、粒度分布の変化)、護岸の存在によって水 流の幅が狭められることによって水流が速くなり、ヒメサンゴが露出し、魚などによ る食害のおそれがあること等といったことについての説明はなされていない。 したがって、事業者の主張には理由がない。

(5) 移植・移築実施時の監視及び委員への情報発信体制が整えられていないこと 第4回環境監視等委員会において、サンゴ類の移植・移築の実施については、随時、 専門の委員に情報発信して、適切な対応であるかダブルチェックして進める必要があ るとの指摘がなされたところ、事業者は、この作業状況の監視体制及び連絡体制につ いて、当該移植・移築を実際に行う時までに構築し、当該作業状況を随時、専門の委 員に対して情報提供を行うとするのみで、具体的な体制が整えられていない。 事業者は、サンゴ類の移植・移築業務を受託した受注者が、当該移植・移築を適切 に履行しているか否かなどについて、事業者の職員が確認の上、環境監視等委員会の 委員に対し情報提供を行っていると主張しているが、環境監視等委員会の委員に情報 提供を行っていることを示すにとどまり、具体的な監視体制が整えられているかどう か判断できる根拠を示していない。 したがって、事業者の主張には理由がない。

(6) 立入調査の要求に応じないこと 上記のとおり、事業者によるサンゴ類の分布状況やその種などの調査報告が極めて

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不十分であることから、本県がこれらの確認のため立入調査を求めたのに対し、事業 者は、自身による現況調査の結果を提示することで確認できるとして立入調査を認め ていない。これにより、事業者が環境保全図書にもとづいて適切にサンゴ類に対する 環境保全措置を実施しているかどうかが確認できず、上記の問題もあることから、環 境保全への支障のおそれがある。 事業者は、必ずしも沖縄県の希望どおりに立入調査を実施できなかったこと自体が、 なぜ「サンゴ類の保全に支障が生ずるおそれ」に直結し、「環境保全二付十分配慮セ ラレタルモノナルコト」の要件を満たさないこととなるのか、沖縄県において、他の 事業例において事業者から提供された資料や立入調査の実績も示しながら、具体的に 示してほしい旨主張する。 本県は、事業者が提出した調査結果等のみでは環境保全への支障のおそれがあると の懸念を払拭できないために立入調査を求めたものであり、事業者が立入調査を認め ず、環境保全措置が適切に実施されているかを確認できなかったことにより、サンゴ 類の保全に支障が生じるおそれがあると判断したものであって、事業者が立入調査に より本県に直接サンゴ類の分布状況やその種などを確認させることで、本県へ資料を 提供するよりも確実に本県の懸念を払拭できたであろうこと、これが容易であること や、事業者の主張は本県の主張に疑義を示しているだけとなっていること等を考える と、事業者の主張には理由がない。 なお、本県は、事業者によるサンゴ類の分布状況やその種などの調査報告が極めて 不十分であることから、これらの確認のため立入調査を求めたのであって、これとは 目的等が異なるオキナワハマサンゴ1群体の移植元及び移植先についての立入調査を 実施させたことをもって、当該項目に関する立入調査を実施させたことにはならない。

3 ジュゴンに関する環境保全措置が適切でないこと (1) 工事着手前に策定すべき海草藻場についての環境保全対策等を策定していないこと ジュゴンの餌場として利用される海藻草類の環境保全措置として、「消失する海草 藻場に関する措置として、被度が低い状態の箇所や静穏域を対象とし、専門家等の指 導・助言を得て、海草類の移植や生育範囲拡大に関する方法等やその事後調査を行う ことについて検討し、可能な限り実施する。」との記載がある(環境保全図書 7-11) が、詳細な検討資料が環境監視等委員会へ提出されたのは、工事着手後の平成 29 年 12 月5日である(第 10 回環境監視等委員会資料 6-4)。ジュゴンの餌場である海草藻 場が消失すれば、ジュゴンへの影響が生じることは明白であることから、海藻草類の 環境保全措置は、海藻草類を消失させる前、すなわち、工事開始前に検討、実施すべ きだったのであり、工事着手後に実施した場合には、当該環境保全措置によって新た な餌場が確保されるまで、ジュゴンの餌場が大幅に減少するのであるから、ジュゴン について「環境の保全上の支障」が生ずることになる。 事業者は、そもそも環境保全図書に記載しているとおり、事業実施区域周辺に生息 しているジュゴンの主な餌場は嘉陽地区西側の海草藻場であると考えており、本件埋 立工事により「新たな餌場が確保されるまで、ジュゴンの餌場が大幅に減少する」と は考えていないと主張する。 しかし、主な餌場が「嘉陽地区西側の海草藻場」のみとするのは、これまで大浦湾 奥部や西部の事業実施区域周辺で食跡が確認されている事実から妥当ではなく、環境 保全図書には「施設等の存在に伴う海草藻場の減少に対して、ジュゴンへの影響を最 大限に低減する」と記載されていることから、事業者の主張には理由がない。

(2) 本件承認処分後に策定したジュゴン監視・警戒システムに問題があり、不適切であ ること 事業者は、環境保全図書に、「ジュゴン監視・警戒システムを構築することを予定 しています。」と記載し(環境保全図書 6-16-279)、本件承認処分後にジュゴン監視・ 警戒システムを構築したところ、同システムには以下の問題があり、ジュゴンについ

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て「環境の保全上の支障」が生ずるおそれがある。 沖縄島周辺に生息するジュゴンは、水産庁の「日本の稀少な野生生物に関するデー タブック」で絶滅危惧種に指定されており、環境保全図書においても生息数が極めて 少数でありその個体群の存続が危惧されているものであるから、ジュゴンの生息環境 の保全については、具体的な環境保全策を講じるにあたって極めて慎重な対応が必要 であるにもかかわらず、それが十分になされているとはいえない。 ア 事業者は、環境保全図書に「ジュゴンの生息位置の確認にあたっては、陸域高台 からの監視や監視船による目視観察では観察に限界があると考えられます。」と記 載しており(環境保全図書 6-16-279)、さらに「ジュゴン監視・警戒システムによ る監視計画」には工事着手後はシステムを用いてジュゴンの監視等を行うと記載し ていた。すなわち、護岸工事着手前には、当該システムについて協議を終えておく 必要があったにもかかわらず、事業者は、護岸工事着手後に初めてシステムを設置 するための協議書を本県に提出した(平成 29 年8月 17 日付け沖防第 4294 号)。こ のことにより、システム設置前までのジュゴンへの監視が十分であったかどうか確 認できないことに加え、工事着手後からシステム設置前までとシステム設置後から 現在までは異なる手法でデータを収集しているため、データの連続性がなく、工事 によるジュゴンへの影響を正確に判断できない。 事業者は、ジュゴンに関して、航空機からの個体の目視確認や潜水目視観察によ る海草藻場の利用状況の確認については工事実施前から行っているものの、平成 29 年4月 25 日に護岸工事を開始し、平成 29 年6月から辺戸岬地先海域等において、 ジュゴンの存在確認を行うため、船舶から水中録音装置を吊り下げる方法等により 監視を開始し、その後の平成 29 年8月 17 日にジュゴン監視・警戒システムを設置 するための協議書を本県に提出し、本県から公共用財産使用協議の同意を得た平成 30 年2月 16 日以降、同海域等の海底面に水中録音装置を順次設置して、ジュゴン 監視・警戒システムによりジュゴンの監視を行っている。 事業者は、工事着手後からシステム設置前までとシステム設置後から現在までは 異なる手法でデータを収集していることについては反論することなく、ジュゴンの 生息状況調査については、ジュゴンの鳴音による存在確認のみで実施するわけでは なく、従前の調査結果から得られた情報も併せ考慮すれば、録音装置の設置による 調査を工事実施後から開始したとしても、工事によるジュゴンへの影響の有無を判 断できるものと考えていると主張する。 しかし、事業者は、環境保全図書において、自ら「ジュゴンの生息位置の確認に あたっては、陸域高台からの監視や監視船による目視観察では観察に限界があると 考えられます。」と記載しており、専門家からも、調査手法が変わった場合は「工 事中、工事後のデータの比較が難しくなる。」との指摘がなされている。 したがって、事業者の主張には理由がない。

イ 「ジュゴン監視・警戒システムによる監視計画」では、試作した監視・警戒装置 についてタイ国で検証試験を行ったとしているが(ジュゴン監視・警戒システムに よる監視計画 P6,13~17)、タイ国で実施した検証試験の仕様を工事海域で利用で きるとした根拠が十分ではない。例えば、大浦湾は、サンゴ礁海域から急深な場所 になるなど特異な地形であるし、本件では工事中は台船や砕石の投入等、様々な音 源があるといった特殊性がある。また、沖縄のジュゴンは昼間に休息し、夜間に摂 餌するとの特性が知られているが、そうした特性が考慮されておらず、タイ国のジュ ゴンの生態との類似性が示されていない。加えて、下記キで述べるように、スキャ ニングソナーはジュゴンを威嚇するおそれがあるところ、これについてはタイ国で 検証試験は行われていない。それにもかかわらず、事業者は、大浦湾での検証を行 わないまま工事を開始した。したがって、当該システムでは、大浦湾におけるジュ ゴンの生息状況の正確なデータを収集できるか不明であって、工事によるジュゴン への影響を正確に判断できるか疑問がある。

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事業者は、スキャニングソナーについてはタイ国で検証を行っていることから、 本県の「スキャニングソナーはジュゴンを威嚇するおそれがあるところ、これにつ いてはタイ国で検証試験は行われていない。」との指摘は誤りであると主張する。 しかし、事業者のいうスキャニングソナーの検証は、「ジュゴンの鳴き返し試験 結果」と「ソナーによるジュゴン探知の確認」であり、スキャニングソナーによる ジュゴンの威嚇に関する検証試験結果ではない。そして、スキャニングソナーがジュ ゴンを威嚇するおそれがあることについては、専門家からも指摘がなされていると ころである。 したがって、事業者の主張には理由がない。

ウ 「ジュゴン監視・警戒システムによる監視計画」では、ヘリコプターによる生息 確認の頻度を月3~4度としているが(ジュゴン監視・警戒システムによる監視計 画 P2、18、19)、月3~4度では回数が少なく、ジュゴンの生息状況を調査監視す るには不十分であるため、工事によるジュゴンへの影響を正確に判断できない。 事業者は、ヘリコプターによる調査回数や確認範囲の基準を示した上で、その回 数や範囲で十分と判断する根拠を具体的に示してほしい旨主張するにとどまり、月 3~4度で十分とする根拠を示していない。 これに対して、専門家からは、「ヘリコプターからの生息確認は、月3~4回だ けでなく、もっと回数を増やした方がいいのではないか。」、「通常は、環境アセ スの時と同様の調査を行ってデータの比較を行う。本件では、環境アセスの時と同 様に、上空から航空機やヘリで可能な限り短時間で広い海域を密に調査すべきで あって、このような調査を行って始めて、環境アセスの時のデータとの比較が可能 になる。」との指摘がなされている。 したがって、事業者の主張には理由がない。

エ 監視・警戒システムの実施状況について、事業者が合理的理由なく現地での確認 を拒否したことから(平成 29 年3月 24 日付け沖防調第 1479 号)、その有効性や適 正な実施が確認できない。 事業者は、沖縄県として現場で確認しなければならないような、具体の事由及び その目的並びに法的根拠を明らかにするよう求めたところ、それに対して沖縄県か らは何らの回答もなかったことから現場の確認の要請は取り下げられたものと理解 していると主張する。 しかし、本県は、システムが適切だとしても、どのような者がどのような方法で 運用しているか等、その運用も適切な形で実施されていなければその有効性が確認 できないという理由に基づき、平成 27 年7月 24 日に、事業者に対して、ジュゴン 監視・警戒システムの実施状況に関する現地確認を求めたのであって、本県は要請 を取り下げておらず、事業者はジュゴン監視・警戒システムの有効性等を確認する ために求めた現地確認を行わせていない以上、ジュゴン監視・警戒システムの有効 性等を確認できない状況に変わりはないのであるから、事業者の主張には理由がな い。

オ 事業者の策定した「ジュゴン監視・警戒システムによる監視計画」には、「監視 プラットフォーム船の配置は、工事の進捗に応じて、各時期での適切な配置に随時 変更することとする。」との記載がある(ジュゴン監視・警戒システムによる監視 計画 P20)。しかし、事業者は工事工程を当初から変更しているが、本県に対して、 変更後の正確な工事工程表が提出されておらず、工程表と連動した監視用プラット フォーム船の運用船舶数、有効範囲、配置位置や稼働計画も示されていないことか ら(平成 27 年 10 月6日付け沖防調第 4395 号、平成 29 年3月 31 日付け沖防調第 1866 号)、ジュゴン監視・警戒システムの有効性を判断できない。 事業者は、「ジュゴン監視・警戒システムによる監視計画」にあるとおり、監視

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用プラットフォーム船3隻を用いて、工事着手前は警戒監視区域(埋立工事施行区 域)内の全域を、工事着手後は警戒監視区域外の大浦湾全域及び嘉陽地先西側海域 を含む海域を、それぞれ監視区域とし、ライントランセクト法(約 300m)で監視 しているところであり、その後、変更する必要性は生じていないと主張するが、工 事工程が変更されているにもかかわらず、配置を変更する必要性が生じていない具 体的な根拠は示されておらず、事業者の主張には理由がない。

カ 事業者の策定した「ジュゴン監視・警戒システムによる監視計画」では、「広帯 域水中スピーカーにより予め録音したジュゴンの鳴音を放音して、積極的に鳴き返 させることにより存在の検出率の向上を図る。」こととなっている(ジュゴン監視・ 警戒システムによる監視計画 P4)。しかし、広帯域水中スピーカーによる鳴音放音 がジュゴンへの誘因・威嚇のどちらになるのかということや、安全性については検 討されておらず、逆に鳴音を放音することでジュゴンを威嚇し、ジュゴンへの影響 が生じるおそれがある。 事業者は、環境監視等委員会に説明し特段の指導・助言がないことを確認してい るとして、沖縄県がどのような根拠ないし事実関係をもって、ジュゴンを威嚇し、 ジュゴンへの影響が生じるおそれがあるのか示してほしいと主張するが、広帯域水 中スピーカーによる鳴音放音がジュゴンを威嚇し、ジュゴンへの影響が生じるおそ れがないとすること、及びその安全性について具体的な根拠は示していない。 したがって、事業者の主張には理由がない。

キ 事業者の策定した「ジュゴン監視・警戒システムによる監視計画」では、「監視 用プラットフォーム船を航行させながら、スキャニングソナーから音波を発射し、 反射波からジュゴンの存在を確認する。」こととなっている(ジュゴン監視・警戒 システムによる監視計画 P5)。しかし、スキャニングソナーの使用のジュゴンへの 影響や安全性については検討されておらず、逆にソナーを利用することでジュゴン を威嚇し、ジュゴンへの影響が生じるおそれがある。 事業者がタリボン島海域においてスキャニングソナー(サーチライト)の検証を 行ったと主張するが、当該主張は、「ジュゴンの鳴き返し試験結果」と「ソナーに よるジュゴン探知の確認」であり、スキャニングソナーによるジュゴンの威嚇に関 する検証試験結果ではない。また、スキャニングソナーがジュゴンを威嚇するおそ れがあることについては、専門家からも指摘がなされているところである。 したがって、事業者の主張には理由がない。

ク 生育・移動監視・警戒サブシステムについては、工事海域のみならず大浦湾にも 設置しなければ、工事によるジュゴンへの影響を正確に判断できない。 事業者は、「ジュゴンの環境保全措置【ジュゴン監視・警戒システムによる監視 計画】」において、嘉陽、古宇利島、安田及び辺戸岬に配置することを想定し、ジュ ゴンの監視を行っている。 この点、工事は大浦湾内で行われるところ、大浦湾におけるサブシステムの設置 が警戒監視区域外周部にとどまり、その数が他の海域よりも少ないことや、専門家 からも「生育・移動監視・警戒サブシステムについては、大浦湾にも設置するべき。」 との指摘がなされていることを考慮すると、事業者のサブシステムの設置方法には 問題があり、事業者の主張には理由がない。

ケ ジュゴンに関する環境保全措置として、「工事の実施後は、ジュゴンのその生息 範囲に変化がみられないかを監視し、変化がみられた場合は工事との関連性を検討 し、工事による影響と判断された場合は速やかに施工方法の見直し等を行うなどの 対策を講じます。」との記載があるが、実施の際の確認範囲(ジュゴン監視・警戒 システムによる監視計画 P2)が不十分である。過去に食跡が確認された大浦湾奥部

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や辺野古(大浦湾西部)や、個体Cが確認されていた辺野古より南側から松田に至 る海域について、食跡調査を実施していないため(環境監視等委員会第8~10 回,12,14,15 回資料)、事業による影響が把握できず、工事によるジュゴンへの 影響を正確に判断できない。 事業者は、「安部及び嘉陽地先」において、食跡調査を実施しており、平成 21 年度より、辺野古地先から豊原地先にかけての施行区域直近における海域について の食跡調査を継続して実施している。 専門家からは、「工事開始前には大浦湾内(湾奥部と湾西部)の海草藻場の利用 が確認されているが、工事開始後にはその確認がないことは重大である。大浦湾内 におけるジュゴンの摂餌環境は工事によって影響を受ける可能性が大きい。…調査 しても食み痕が認められなかったのであれば、その事実は無視できない。同様の理 由により辺野古の南側から松田に至る藻場において安部・嘉陽地先と同様の調査が なされていないことも問題である。」と指摘がなされている。 事業者は、ジュゴンの各個体の行動範囲がこれまでの範囲を外れた状態が継続し ている場合、工事の実施に伴う環境変化によるものか、あるいは自然環境の変動に よるものか検討することとしているとするのみであって、その前提となる事業者の 調査が極めて不十分にとどまっているのである。 したがって、事業者の主張には理由がない。

コ ジュゴンに関する環境保全措置として、「工事の実施後は、ジュゴンのその生息 範囲に変化がみられないかを監視し、変化がみられた場合は工事との関連性を検討 し、工事による影響と判断された場合は速やかに施工方法の見直し等を行うなどの 対策を講じます。」との記載があるが(環境保全図書 6-16-282)、システム等で収 集したデータの活用方法に問題がある。事業の影響をジュゴンの各個体の行動範囲 がどこであるかにより評価するのみであって、その海域での利用頻度での評価をし ていないため(環境監視等委員会第8~10 回,12,14,15 回資料)、工事によるジュ ゴンへの影響を正確に判断できない。 事業者は、海域の利用頻度を含めた生息状況を把握していると主張するほか、こ れまでジュゴンの生息が確認されてきた海域での行動範囲や行動生態の変化を効率 的かつ効果的に把握することができるものと考えていると主張するが、実際には調 査の方法や期間、範囲もばらつきがあるデータをそのまま示すのみであって、利用 頻度での評価を行っていないことに関する具体的な根拠は示されていない。 一方で、専門家からは、「嘉陽あるいは古宇利海域にジュゴンがどの程度の頻度 で出現したか、その頻度が工事前と後で異なるか否かを明らかにすべきである。そ の際には調査・観察努力量に配慮した解析が必要となる。もしも、ジュゴンがこれ ら特定海域以外に出現する頻度が事前と事後で異なるならば、それも影響評価とし て重要な知見となり得る。」と指摘がなされているところである。 したがって、事業者の主張には理由がない。

サ ジュゴンに関する環境保全措置として、「工事の実施後は、ジュゴンのその生息 範囲に変化がみられないかを監視し、変化がみられた場合は工事との関連性を検討 し、工事による影響と判断された場合は速やかに施工方法の見直し等を行うなどの 対策を講じます。」との記載があるが、事業者の実施している生息海域における航 空機による生息状況調査等では、飛行経路、飛行時間等の調査努力量が示されてい ない。具体的には、沖縄島沿岸部全域の航空機調査を短時間でライン調査のような 形で年間通して行うべきである。したがって、ジュゴンの確認状況等について統計 的な検定が実施できず、工事によるジュゴンへの影響を正確に判断できない。 専門家からは、「通常は、環境アセスの時と同様の調査を行ってデータの比較を 行う。本件では、環境アセスの時と同様に、上空から航空機やヘリで可能な限り短 時間で広い海域を密に調査すべきであって、このような調査を行って始めて、環境

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アセスの時のデータとの比較が可能になる。」、「航空機による広域調査を行うべ きであった。」との指摘がなされているところ、事業者からは、航空機による生息 状況調査等において調査努力量を示していないことや、沖縄島沿岸部全域の航空機 調査を短時間でライン調査のような形で年間通して行う必要がないことに関する具 体的な根拠は示されておらず、事業者の主張には理由がない。 なお、ジュゴン監視・警戒システムについては、環境保全図書には「ジュゴン監 視・警戒システムは、下記のような方針で構築することを予定しています。」と記 載し、ジュゴン監視・警戒システムについては承認後に具体的な体制を構築するこ ととしており、ヘリコプターによる生息確認については、同システムの「生息・移 動監視・警戒サブシステム」の中の項目として挙げられている。 以上よりすれば、ジュゴン監視・警戒システムについては、承認後に具体的な体 制を構築した上で留意事項2に基づく本県との協議を行って確定させることを予定 していたのであって、事業者の「環境保全図書に記載のないことを求めることとな り不合理だと考えます。」との主張には理由がない。

シ 「ジュゴン監視・警戒システムによる監視計画」により得られたデータについて は、環境監視等委員会に提出されているが(環境監視等委員会第8~10 回、12、14, 15 回資料)、ジュゴンに影響がなかったかどうかについての定量的な検討がなされ ておらず、事業者が工事によるジュゴンへの影響を正確に評価できているとは言え ない。 事業者は、平成 28 年9月 16 日の不作為の違法確認訴訟の高裁判決において「… 定性的評価であるというだけで不当とは言えない。…国は定量的評価が可能なもの については定量的評価を行い、それが困難な場合に定性的評価を行っているものと 推認できる。」(144 頁)と判示されていることからすれば、必ずしもジュゴンへの 影響がないことについて定量的な検討がなされていないことをもって不当とは言え ないものと認識していると主張している。 しかし、当該高裁判決の該当部分は、その後の最高裁判決では維持されていない。 また、当該高裁判決は、「定性的評価であるというだけで不当とは言えない。…国 は定量的評価が可能なものについては定量的評価を行い、それが困難な場合に定性 的評価を行っているものと推認できる。」としているところ、事業者は、ジュゴン の生息状況について定量的評価が可能であるのか、それとも困難であるといった具 体的な根拠を示していない。 また、定量的な検討がなされていないことについては、専門家からも指摘がなさ れているところである。 したがって、事業者の主張には理由がない。

(3) 専門家による指導・助言の内容とその反映状況が不明であり、適切な指導・助言に 基づいて環境保全措置がなされていることが確認できないこと 事業者に対するジュゴンの専門家の助言内容とこれに対する対応が明らかにされ ないため、適正な環境保全対策が実施されているか確認できない。環境監視等委員会 の議事概要は公開されているが、氏名は非公開となっており、どの発言がジュゴンの 専門家の発言なのか分からない。また、環境監視等委員会以外の専門家については、 どのような指導・助言を得たのか、指導等を得ていた場合のその者の専門分野や所属 機関等が不明であり、専門家の指導等をどのように反映させたのか分からない (平 成 29 年 11 月2日付け沖防調第 5417 号)。 事業者は、そもそも、環境監視等委員会における委員の間での議論を踏まえて出さ れた指導・助言については、ジュゴンの専門家の意見に基づくものだけでなく、その 他の分野の専門家からの意見に基づくものであっても、委員会としての指導・助言と なれば、その指導・助言を取り入れて措置を講じることとしていると主張する。 しかし、例えば、ジュゴンの専門家でない委員の指導・助言がジュゴンの専門家の

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観点からは適当ではない場合も考えられるし、二人以上の委員からジュゴンに対する 異なる指導・助言がなされた場合にあっては、通常はジュゴンの専門家の意見を採用 するはずである。 また、事業者は、他事業においても公表してないものについてはその委員会等の公 正性、審議の公正性については判断できないと考えているのかといった旨の質問を 行っているところ、本県は、氏名の公表そのものではなく、専門家の助言内容とこれ に対する対応が明らかでないために、適切な環境保全措置が実施されているか確認で きないとして、それを示すことを求めているものである。 以上のことから、事業者の主張には理由がない。

(4) 事後調査により、工事による実害が生じるおそれが出てきていることについて、そ の影響の有無を調査していないこと 平成 30 年7月6日に沖縄県知事から事業者に発出した「普天間飛行場代替施設建 設事業に係る事後調査報告書等について」では、沖縄県環境影響評価条例に基づき、 事業者に対して環境保全措置要求を行っているところ、当該環境保全措置要求には、 「事後調査報告書には、『個体Cについては、調査期間中確認されませんでした』と 記載されているが、確認されなくなった時期については記載されていない。事業実施 海域については、平成 26 年8月にフロートやブイを設置しており、多くの作業船や 監視船が当該海域を航行するようになっている。個体Cについては、環境影響評価時 の調査において、大浦湾奥部や辺野古海域等を広く利用していた個体である。このこ とから、事業実施がジュゴンの生息環境に実害を生じさせているおそれがある。つい ては、個体Cが確認されなくなった時期と事業実施海域におけるフロートの設置や ボーリング調査の実施等の事業による影響を考察すること。」との記載があるにもか かわらず(環境保全措置要求 P9)、個体Cが確認されなくなった時期と事業実施海 域におけるフロート設置等との影響の有無について、十分検討されていない。 事業者は、環境監視等委員会の委員から「成人して親離れして、離れて行ってしまっ たのではないか」との見解を得ており、事業実施がジュゴンの生育環境に実害を生じ させたとは考えていない旨主張する。 しかし、事業者は平成 26 年8月にブイやフロートを設置しており、ジュゴン個体 Cについては、平成 27 年6月までは嘉陽沖周辺や古宇利島で確認されていたものの、 平成 27 年7月以降は確認されなくなっている。 そして、専門家からも「工事の影響ではないとの立証責任は工事者側にあるとの判 断である」との指摘がなされているところ、本件では、事業者自身が「ジュゴンの個 体Cが確認されなくなった原因については、確たることを申し上げることは困難です が」と述べるとおり、個体Cが確認されなくなった原因については不明であり、環境 監視等委員会においても、「成人して親離れして、離れて行ってしまったのではない か」との専門家の見解を紹介するにとどまっており、それ以上の議論はなされていな い。 加えて、事業者のジュゴンの調査方法には上述の(2)及び(3)のような問題点がある。
したがって、事業者の主張には理由がない。

4 海藻草類に関して本件承認処分後に策定すべき環境保全対策等を策定していないこと 環境保全図書においては、「工事の実施において周辺海域の海草藻場の生育分布状況 が明らかに低下してきた場合には、必要に応じて、専門家等の指導・助言を得て、海草 類の移植(種苗など)や生育基盤の環境改善による生育範囲拡大に関する方法等を検討 し、可能な限り実施します。(環境保全図書 6-15-226~227、7-8)」と記載されている が、護岸工事に着手している現時点においては、仮に海草藻場の被度に影響があった場 合を想定し、海草藻場の生育分布状況が明らかに低下してきたと判断する具体的な基準 を策定しておく必要があるが、未だに策定されていない(平成 29 年7月 25 日付け土海 第 48 号別紙 P6、平成 29 年 11 月2日付け沖防調第 5417 号)。また、生育範囲拡大に

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関する方法についても未だに策定されていない。 また、環境保全図書において、「代替施設の存在に伴い消失する海草藻場に関する措 置として、改変区域周辺の海草藻場の被度が低い状態の箇所や代替施設の設置により形 成される静穏域を主に対象とし、専門家等の指導・助言を得て、海草類の移植や生育基 盤の環境改善による生育範囲拡大に関する方法等やその事後調査を行うことについて検 討し、可能な限り実施します。」(環境保全図書 7-11)とされていることに関し、事業 者は、「当該環境保全措置は、環境保全図書(6-15-229 ページ)に記載のとおり、施設 等の存在及び供用に係る環境保全措置としているほか、代替施設の設置により形成され る静穏域を対象とするなど、埋立等の工事の終了後に実施することを前提としたもので あり、当該工事の実施に先立ち講じる措置ではありません。」(平成 27 年 10 月6日付 け沖防調第 4395 号)とし、未だ環境保全対策を講じていない。 しかし、環境保全図書において「施設の存在及び供用に係る環境保全措置」に位置づ けられているものであっても、埋立工事の着手前に保全措置を行うと明記されているも のも存在する(環境保全図書 6-13-350。底生動物の移動)。このことからしても、「施 設の存在及び供用に係る環境保全措置」に位置づけられていることをもって、工事の終 了後に保全措置を行うことを前提としているとはいえない。 代替施設の存在に係る海草藻場は、工事中に消失していくものであるから、工事の着 手前又は工事中に、埋立区域内の海藻草類の移植を含めた環境保全措置を行う必要があ ることは当然であり、工事が進められている現状にあっては、現時点で、「代替施設の 存在に伴い消失する海草藻場に関する措置」が講じられていなければならないことは自 明である。また、上記3(1)でも述べたように、海藻草類の環境保全措置がなされていな い場合には、これを餌場とするジュゴンの環境保全措置にも影響を及ぼすものである。 事業者は、海草藻場の生育分布状況が明らかに低下してきたと判断する具体的な基準 について、平成 19 年度から平成 26 年度まで実施した海草類に係る調査結果の変動範囲 を基本とし、その範囲から外れた状態が継続しているかどうかを判断材料としていると 主張する。 しかし、本県は、「変動範囲から外れた状態が継続しているかどうか」についての検 討がなされていないことを指摘しており、現時点においても、具体的な検討がなされて いるかどうかについて、事業者が示した証拠からはうかがうことができないことから、 事業者の主張には理由がない。 さらに、工事の実施において周辺海域の海草藻場の生育分布状況が明らかに低下した 状況は確認されていないとの事業者の主張について、第 15 回環境監視等委員会資料に よれば、周辺海域の海草藻場の面積が減少していることが認められる一方、生育分布状 況が低下した理由が工事の実施によるものではないとする理由は明らかではない。 また、本県からの「工事の着手前又は工事中に、埋立区域内の海藻草類の移植を含め た環境保全措置を行う必要がある」との指摘に対し、事業者からは、海草藻場の生育範 囲拡大については、既に検討を開始して専門家の指導・助言を得ているとの主張があっ たが、これは、護岸工事が相当程度進んでいるにもかかわらず、未だ海草藻場の生育範 囲拡大に係る検討結果がある程度まとまったことを示すのみで、これに係る県との協議 や具体的な措置の実行には至っていないことを示しており、事業者の主張には理由がな い。

5 サンゴ類を事業実施前に移植・移築せずに工事に着手したこと 本件承認処分に付された附款(負担)である留意事項の第4項(以下「留意事項4」 という。)は、「申請書の添付図書のうち、公有水面埋立法規則…第8号(環境保全に 関し措置を記載した図書)を変更して実施する場合は、承認を受けること」としており、 環境保全図書に変更がある場合には、知事の変更承認が必要であることを規定している。
事業者は、サンゴ類の環境保全措置について、環境保全図書に「事業実施前に…移植・ 移築して影響の低減を図」ると記載し、沖縄県知事から埋立承認を受けた(環境保全図 書 7-10)。

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この点、一般的な環境保全対策では、工事中に環境が急に変化した場合、サンゴ類が 急激に環境変化の影響を受ける可能性もあり、これに直ちに対応できない可能性等もあ ること等から、事業実施前にサンゴ類や重要な種等を移植・移動することが通常である。 また、環境影響評価は、工事による影響、施設等の存在による影響、施設等の供用によ る影響について、それぞれ騒音や水質などの各環境要素について調査・予測・評価を行 う。本件の場合、サンゴ類への影響については、工事中に発生する濁りによる影響、埋 立地の存在により埋立区域内のサンゴ類が消失する影響、供用後の施設等からの排水に よる影響等について予測・評価がなされている。サンゴ類の移植という環境保全措置は、 基本的には、施設の存在によりサンゴ類が消失することに対する対策として、工事によっ てサンゴ類が消失してしまえば移植すべきサンゴ類が存在しないことになるため、工事 前にサンゴ類を移植する必要があることは当然のことであるが、それにとどまらない。 環境保全図書においても、「工事の実施」自体について、「工事中の濁りがサンゴ類の 生息環境に及ぼす影響を低減するため」として、「埋立区域内に生息するサンゴ類は… 埋立に伴ってやむを得ず消失することになるため、可能な限り工事施工区域外の同様な 環境条件の場所に移植」するとしており(環境保全図書 6-14-162)、工事による影響を 回避・低減する措置としても移植の実施が求められているのである。 また、事業者が設置した環境監視等委員会における第1回、第2回の議事要旨や資料 中でも、「サンゴ類の移植」が「1 着工前に実施する環境保全措置」(第1回環境監 視等委員会 資料3)であることが前提とされている。平成 27 年9月 24 日付け沖防調 第 4248 号でも、資料2-②の注意1部分に、「重要な種の移動及びサンゴの移植につい ては、当該工事の着手までに実施します。」と記載されている(平成 27 年9月 24 日付 け沖防調第 4248 号資料2-④注意1)。このようなことからも、事業者が、事業実施前 にサンゴ類の移植・移築を行うことを予定していたことは明らかである。 しかし、事業者は、上記指摘の環境保全図書 7-10 の記載は、あくまで事業実施前に、 「移植・移築作業の手順、移植・移築先の環境条件やサンゴ類の種類による環境適応性、 採捕したサンゴ類の仮置き・養生といった具体的方策について、専門家等の指導・助言 を得」ることを記載したものに過ぎず、事業実施前のサンゴ類の移植・移築の実施を義 務づけることを意味するものではないことを御理解願います。」と主張し(平成 29 年4 月 24 日付け沖防調第 2320 号)、環境保全図書の変更承認を得ずに事業実施前にサンゴ 類を移植・移築することなく工事に着工しており、留意事項4に違反したと認められる ものである。 このように、事業実施前にサンゴ類を移植・移築することなく工事を行い、護岸工事 を行った結果、護岸の設置に伴う潮流の変化に伴う流速の変化、海水温の変化、栄養塩 量の変化や底質の変化(砂の堆積、粒度分布の変化)により、周辺域に分布するサンゴ 類へ影響が生じるおそれがある。また、オキナワハマサンゴに環境保全図書に記載のな い新たな対策を講じなければならなくなるほど影響を生じさせている。 サンゴ類の環境保全措置について、環境保全図書の記載内容や本県が示した専門家の 意見、一般的な環境保全対策の考え方や、承認後に作成された事業者の資料や環境監視 等委員会における委員の発言等に照らせば、本件における環境保全図書(7-10 頁)の記載 の記載は、サンゴ類の移植・移築について事業実施前に行うことを記載したものと考え るべきであって、事業者の「環境保全図書の記載(7-10 頁)については、あくまでサンゴ 類に影響を与える工事を実施する前に「移植・移築作業の手順、移植・移築先の環境条 件やサンゴ類の種類による環境適応性、採捕したサンゴ類の仮置き・養生といった具体 的方策について、専門家等の指導・助言を得」て可能な限り移植・移築を行うことを記 載したものであり、事業実施前に全てのサンゴ類の移植・移築の実施を義務付けること を意味するものではありません。」との主張には理由がない。 また、事業者は、留意事項4に基づく環境保全図書の変更承認に関しても、その申請 を要するような変更は行っていないと主張するが、環境保全図書の変更承認を得ずに事 業実施前にサンゴ類を移植・移築することなく工事に着工しており、その主張には理由 がない。

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なお、本県は、サンゴ類を事業実施前に移植・移築せずに工事に着手したことを指摘 しているもので、そのことによりサンゴ類への影響が生じていると主張しているのであ るから、事業者の「これまでのところ、護岸工事によるサンゴ類への影響はなく、その 生息環境は維持されていることが確認されており、現状において問題は生起しておりま せん。」との主張には理由がない。

6 ウミボッスを移植・移築せずに工事に着手したこと ウミボッスは、南西諸島固有種の海藻類で、環境省レッドリスト及びレッドデータお きなわでは絶滅危惧Ⅰ類とされているところ、環境保全図書 6-13-344 では、「改変区域 内に生息する底生動物のうち、主に自力移動能力の低い貝類や甲殻類の重要な種、必要 と判断される海藻類の重要な種については、埋立工事の着手前に、現地調査時に重要種 が確認された地点及びその周辺において、可能な限りの人力捕獲を行い、各種の生息に 適した周辺の場所へ移動を行います」としている。さらに同図書 12-2-28 では、事業者 は、「ウミボッスについては、底生動物の移植作業と同様に工事実施前に移植する」と 見解を述べている。また、これに慎重を期するべく、「海藻類の移植は効果に不確実性 が残されるため、他の海藻草類を含め、事後調査によって生育状況を調査し、何らかの 異常な変化がみられた場合、新たな環境保全措置を検討することとし、検討にあたって は、専門家の助言を得ながら実施する」ともしている。 ところが事業者は、平成 29 年2月7日に海上工事に着手したほか、同年4月 25 日に は護岸工事を着工し、ウミボッスの繁茂期とされる3月上旬から4月上旬の間、ウミボッ スを移植することなく、その保全に重大な影響を与えるような工事を次々と実施した。 さらに、ウミボッスの移植の実施に係る本県からの照会(平成 29 年7月 25 日付け土 海第 48 号)に対し、「ウミボッスの移植は、これまでに行っておらず、次の繁茂期は来 年3月上旬から4月上旬となることから、本年中に移植を実施する予定はありません。」 と回答したほか、「ウミボッスの移植時期の詳細については…現在検討中ですが、繁茂 期である来年3月上旬から4月上旬に実施することを検討しています」「ウミボッスの 移植については、現在、環境監視等委員会からの具体の指導・助言は得ておりませんが、 …今後、ウミボッスの生息環境に影響を与えるような工事に着手する前に、かかる指導・ 助言を得た上で、速やかに…当該情報を提供したいと考えています(平成 29 年 11 月2 日付け沖防調第 5417 号)とするにとどまった。 その後も、多数の箇所において護岸工事等を進めているが、ウミボッスの移植に関し ては、平成 30 年5月 28 日開催の第 15 回環境監視等委員会配付資料において、過去の調 査で確認したウミボッスの生育位置を踏まえて設定した 52 地点のうち、同年3月 28 日 にわずかに1個体を発見して移植したことが報告されているのみである。 海藻類の移植は、単に移植をすればよいというのではなく、移植にあたっては、元々 いた場所に影響を与えないのか、移植先に影響を与えないのかを事前に調査する必要が あり、また、移植先での安定的な生育が必要であることから、移植先でも維持されて世 代交代がなされていることを確認する必要がある。また、同種の生物でも成育場所によっ て遺伝子が異なることがあるため、同種だからといって安易に他の地域の生物を移入さ せることもやるべきではない。したがって、これらの確認がなされて初めて実効的な移 植となりうるのであるから、工事の開始によって水の濁りや潮流の変化などの影響が生 じる前に移植を行うことは極めて重要である。しかるに、事業者は、工事着手前に何ら ウミボッスの移植を行っておらず、これは、工事実施前の移植を予定していた環境保全 図書の記載と異なる環境保全措置にとどめるもので、その変更承認申請を行っていない ことから留意事項4に違反するとともに、上記のとおりウミボッスの保全に重大な支障 を及ぼしている。 ウミボッスの環境保全措置については、環境保全図書において「ウミボッスについて は、底生動物の移植作業と同様に工事実施前に移植する」とされている。 事業者は、平成 29 年2月7日に海上工事に着手したほか、同年4月 25 日には護岸工 事を着工したことが認められる。

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しかし、事業者は、平成 29 年 11 月2日の文書により、「ウミボッスの移植は、これ までに行っておらず、次の繁茂期は来年3月上旬から4月上旬となることから、本年中 に移植を実施する予定はありません。」と本県に示したことが認められ、その後平成 30 年3月 28 日になってはじめて、ウミボッス1個体を移植したものと認められる。 これらの経緯からすれば、環境保全図書の記載と異なり、ウミボッスを工事実施前に 移植を行っていないことが認められ、その変更承認申請を行っていないことから留意事 項4に違反する。 また、事業者は、ウミボッスの移植に係る環境保全対策等について詳細検討し、環境 監視等委員会の指導・助言を受けた上で、沖縄県にも直接説明を行うなど、留意事項 2 に基づき丁寧な対応を行ってきたところであり、留意事項4に基づく環境保全図書の変 更承認を要するような行為は行っていないと主張している。 しかし、事業者からは、過去の調査において確認したウミボッスの位置を踏まえて設 定した 52 の地点のうち、1地点で1個体のみが発見されたことが示されているが、52 の地点のうち1地点でしか発見されなかった理由については特に示されていない。 このようなことから、留意事項2に基づき丁寧な対応を行ってきたとの事業者の主張 には理由がない。

7 傾斜堤護岸用石材を海上搬入したこと 事業者は、傾斜堤護岸用石材の運搬方法について、環境保全図書の「船舶・建設機械 稼働計画」の「傾斜堤護岸(護岸・中仕切)」部分に、石材の運搬方法として「ダンプ トラック」のみを挙げ、「ケーソン式護岸」部分の「ランプウェイ台船」のように、船 舶で運搬することについては記載していない(環境保全図書 6-1-3)。また、海上運搬す る種類として「購入土砂等」と記載し(環境保全図書 6-1-9 表-6.1.1.3)、「購入土砂等」 として、「埋立・地盤改良用に使用する購入土砂等(海上運搬)」と記載している(環 境保全図書 2-96)。すなわち、事業者は、傾斜堤護岸用石材を海上運搬することについ て、環境保全図書には記載せずに、沖縄県知事から埋立承認を受けたものである。また、 K-9護岸を桟橋として利用することについても、設計概要説明書には記載されていな い(設計概要説明書 P61)。 しかし、事業者は、前記留意事項4に基づく変更承認を得ずに傾斜堤護岸用石材を海 上運搬しており、留意事項4に違反したと認められるものである。 このように、環境保全措置の内容を変更せずに、K-9護岸を桟橋として利用して傾 斜堤護岸用石材の海上運搬を行った結果、水深の浅い海域に船舶が接近することによる 底質の巻き上げ等の新たな環境影響が生じるおそれがある。また、以下の9で述べるよ うに、環境保全図書を変更する際には環境影響の予測評価を改めて行う必要があるとこ ろ、本件では海上を航行する船舶が増加するにもかかわらず、ジュゴンへの影響等、事 業者は環境影響の予測評価を改めて行っていないことから、環境保全への支障が生じる おそれがある。 事業者は、「工事工程や計画は現時点における設定であり、実施の際には変更される ことがあり得ます。」とする環境保全図書の第6章冒頭部分の記載を踏まえ、当該稼働 計画の再検討を行ったと主張している。 しかし、本件承認処分に付された留意事項4は、「申請書の添付図書のうち、公有水 面埋立法規則…第8号(環境保全に関し措置を記載した図書)を変更して実施する場合 は、承認を受けること」としているところ、当事者は、環境保全図書の変更承認を得ず に環境保全図書に記載されていない傾斜堤護岸用石材の海上運搬を行ったのであるか ら、事業者の主張には理由がない。 また、事業者は、海上運搬に変更したことに伴う環境影響について、委員会から特段 の指導・助言はなく、沖縄県にも直接説明したと主張するが、環境保全図書を変更する 際には環境影響の予測評価を改めて行って本県の審査を経た上で変更承認を受ける必要 があるところ、事業者は、傾斜堤護岸用石材の海上運搬に伴う環境影響の予測評価につ いて本県の審査を経ていないのであるから、事業者の主張には理由がない。

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8 辺野古側海域へフロートを設置したこと 事業者は、海草藻類の環境保全措置に関し、「濁りの発生量が周辺の影響に与える影 響よりも、汚濁防止膜設置による周辺海域の海草藻類等に損傷を与える可能性を考慮し、 状況によっては汚濁防止膜を設置しない。」(環境保全図書 7-6)とし、「辺野古側の 護岸・埋立工事に関しては濁りの発生負荷量が周辺環境に与える影響よりも、汚濁防止 膜の設置が周辺の海藻草場に損傷を与える可能性を考慮し、設置しない計画です。」(同 6-7-125)とされていた。 これに対し、事業者は、上記は汚濁防止膜の設置についての記載であるとして、作業 区域の明示、安全確保を理由にこの海域にフロート及びアンカーを設置している。しか し、汚濁防止膜を設置しないという環境保全措置は、これらの設置物が当該海域の海草 藻場類等に損傷を与える可能性があることから対応されたものであるから、そのような 損傷のおそれはフロートに固定されるアンカーを海底に設置する場合であっても同様で ある。 環境保全図書では上記の様な保全措置を前提としているのであるから、フロート及び アンカーを設置するのであれば、環境保全図書の内容を変更してこれに対する十分な環 境保全措置をとるべきである。かかる事業者の行為は、留意事項4に違反するとともに、 辺野古側の海域における海藻草類等の保全に支障を及ぼすおそれがあるものである。 事業者は、上記環境保全措置については、本件フロート等について記載したものでは なく、留意事項4に基づく変更承認は必要ないと主張する。 しかし、海藻草類等の損傷のおそれはフロートに固定されるアンカーを海底に設置す る場合であっても同様であって、事業者の主張には理由がない。

9 変更承認申請を行わず施行順序の変更をなし、これによるサンゴ類、海域生態系、陸 域生態系への影響を考慮していないこと 事業者は、公有水面埋立承認願書の「設計の概要」部分に、「埋立てに関する工事は、 まず、埋立区域前面の所要箇所に汚濁防止膜を展張する。次に、杭打船による二重鋼管 矢板の打設でA護岸、中仕切岸壁B及び中仕切岸壁Aの一部を、またクローラクレーン による巻き出し方式でK-1~4護岸、K-8~9護岸、中仕切護岸N-1~5を概成 させ、外海と遮断した埋立区域から順に、山土及びガット船等で陸揚げする岩ズリ・海 砂をダンプトラックで搬入し、ブルドーザーで巻き出して埋立を行う。次に、杭打船に よる二重鋼管矢板の打設で中仕切岸壁Aを、またクローラクレーンによる巻き出し方式 でK-5~7護岸、C-1~3護岸、隅角部護岸、護岸(係船機能付)を概成させ、波 浪に対する遮蔽域を確保しつつ、また汚濁防止膜の追加展張を行い、山土及びガット船 等で陸揚げする岩ズリ・海砂をダンプトラックで搬入し、ブルドーザーで巻き出し、埋 立てを行う。計画地盤高まで全ての埋立区域を仕上げた後に汚濁防止膜を撤去し、埋立 てに関する工事を竣工させる。」と記載し(設計概要変更承認申請書「設計の概要」)、 設計概要説明書の「埋立区域②」の項目には、「先行して築造された埋立区域①に、… 土砂を…搬入し、…埋立区域②の埋立を終了する。」と記載し(設計概要変更承認申請 書 設計概要説明書 P28)、また、設計概要説明書の工事工程表では、代替施設本体に 係る護岸工は、最初にA護岸、中仕切岸壁A・Bが着工され、その約2か月後にC-1 護岸、K-4護岸、K-8護岸、K-9護岸、中仕切護岸N-1・N-4・N-5に着 工される計画となっており(設計概要変更承認申請書 P30 表 3.1.1)、さらに、埋立 状況進捗図では、1年次 12 ヶ月目の進捗としては、埋立区域のうち、埋立区域①-1の みが埋立中であることを記載している(設計概要変更承認申請書 P31 図 3.1.3)など、 埋立区域①、②、③の順序で着工されることになっており、このような施工順序の計画 に基づいて沖縄県知事から本件承認処分を受けている。 このとおり、事業者は、護岸工事については、最初にA護岸、中仕切岸壁A・Bが着 工され、その約2か月後にC-1護岸、K-4護岸、K-8護岸、K-9護岸、中仕切 護岸N-1・N-4・N-5に着工する施行順序を採用しており、埋立工については、

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まず埋立区域①から先に行い、埋立区域①の中仕切岸壁にガット船を接岸して土砂を陸 揚げし、その土砂をダンプトラックで搬入し、ブルドーザーで巻き出して埋立区域②を 埋め立てるという施行順序を採用していた。 ところが、事業者は、護岸工事については、平成 29 年4月 25 日にK-9護岸に着工 し、平成 29 年 11 月6日にK-1、N-5護岸に着工、平成 29 年 12 月 22 日にK-4護 岸に着工するなど、承認願書等の記載とは異なる順序で工事を行っている。また、埋立 工については、「埋立区域②については、現在施工しているK-4護岸の進捗状況や気 象・海象の状況等を踏まえつつ、今後、埋立区域①よりも先に具体の埋立工に着手する ことを予定しております。」(平成 30 年6月 12 日付け沖防調第 3241 号)と述べて、願 書等の記載とは異なり、埋立区域②から先に埋立工を行うことを明言している。 環境影響評価において、工事に伴う環境影響については、工事関係車両の通行に伴う 大気質、土砂による水の濁り、道路交通騒音・振動の影響や、大気質への影響に伴う動 植物への影響などについて環境影響評価(調査・予測・評価)を行う(環境保全図書 5-2 ~5-24 参照)。このとき、施行計画、工事工程、重機投入計画などが予測の前提となり、 それらを基に環境影響評価を行うことになる。その際は、全工事工程における環境への 影響を予測するのではなく、最も影響が大きくなるピーク時について予測するのが一般 的である。そのピーク時を施行計画等から導き出すことになる(一例として環境保全図 書 6-7-119~168(特に 122、124、142~144、145 以降)参照)。したがって、施行順序 が変われば、環境保全対策等策定の前提が変わり、環境保全措置の内容そのものを変更 する必要がある。 そして、本件承認処分に付された附款(負担)である留意事項4は、前記のとおり環 境保全図書に変更がある場合には、知事の変更承認が必要であることを規定している。 しかし、事業者は、護岸工事について、承認願書等の記載とは異なる順序で護岸工事 を行っているにもかかわらず、法第 13 条の2による「設計の概要」の変更承認申請を行 わず、かつ環境保全措置の内容を変更しておらず、留意事項4に違反したと認められる ものである。また、埋立工についても、「今回、埋立区域①より先に埋立区域②の埋立 工を行うこととしておりますが、願書に添付された環境保全に関して講じる措置を記載 した図書に記載された環境保全措置を変更して、当該埋立工を行う予定はありません。」 (平成 30 年7月 12 日付け沖防調第 3793 号)とし、承認願書等の記載とは異なる順序で 埋立工を行うことを明らかにしながら、環境保全措置の内容を変更する予定はないこと を明言しており、法第 13 条の2による「設計の概要」の変更承認申請を行わないことや、 留意事項4に違反することが確実な状況となっている。 このように、環境保全措置の内容を変更せずに、承認願書等の記載とは異なる順序で 護岸工事や埋立工事を行った結果、工事実施期間中において、海岸地形の変更に伴い潮 流に変化が生じることが容易に推測され、これにより水中の環境や存在する物質や生物 の動態に変化を及ぼすおそれがあり、施行順序の変更に伴った環境影響評価のやり直し をしなければ、その環境保全への支障を十分に防ぐことはできない。 事業者は、法に基づく変更承認は、願書の記載事項である「設計の概要」を変更する 場合を対象としており、その添付図書である「設計概要説明書」の変更は、当該設計変 更の対象とはならないものと認識している旨主張する。 しかし、本県は、工法によっては 法第 13 条の2で規定する「設計ノ概要ノ変更」の 対象になる可能性があることをもって「法第 13 条の2による「設計の概要」の変更承 認申請を行わないこと…が確実な状況となっている。」と指摘しているが、事業者は、 埋立区域①より先に埋立区域②の埋立工事を行うことは、願書において特定された「設 計の概要」を変更するものではないことから、法に基づく変更承認は必要ないものと考 えていると主張するにとどまり、どのような工法で行われるのか詳細な説明を行ってお らず、「設計の概要」を変更するものではないことを具体的に示していない。 環境保全図書を変更する際や設計の概要の変更を行う際には、環境影響の予測評価を 改めて行って本県の審査を経た上で変更承認を受ける必要があるのであって、事業者は、 護岸工事や埋立工の施工順序の変更について本県の審査を経ておらず、また、経ないこ

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とが確実な状況となっているのであるから、当事者の主張には理由がない。 また、事業者は、沖縄県は「施行順序が変われば、環境保全対策等策定の前提が変わ り、環境保全措置の内容そのものを変更する必要がある」とするが、埋立区域②(K- 4護岸とN-3、N-5中仕切護岸に囲まれた区域)の埋立てを先行して行うとしても、 これにより環境負荷が増加することは見込まれず、環境保全に関する措置を変更する必 要はないと考えていることから、留意事項4に基づく変更承認申請は必要ないものと考 えている旨主張するが、環境保全に関する措置を変更する必要はないとする根拠が示さ れておらず、その主張には理由がない。

10 以上のように、事業者は留意事項2に基づく事前協議が調わないまま留意事項2違反 の状態で工事を強行しており、また、留意事項4に基づく環境保全図書の変更承認を得 ないまま留意事項4に違反して工事を強行している。このような工事により、上記の各 事項につき、環境保全上の支障が生じることは明らかである。 したがって、「環境保全…ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」という基幹的な要 件の事後的消滅に至っているものと認められるものである。 しかるに、本県が再三にわたって工事を停止して埋立全体の実施設計に基づき詳細検 討した環境保全対策等を示して協議をすることや、環境保全図書の変更が必要であるこ とを指導しても、事業者は、これに従わず、埋立全体の実施設計に基づき詳細検討した 環境保全対策等を示して協議を行うことなく工事を継続しており、「環境保全…ニ付十 分配慮セラレタルモノナルコト」という基幹的な要件が事後的に消滅している状態を是 正する意思がないことは顕著であり、本県の行政指導に従うことはないものと認められ る。 本県の行政指導に従わず、「環境保全…ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」とい う基幹的な要件の事後的消滅に至ったまま事業者が工事を強行することにより、実際に 公益が脅かされているものであるから、本件承認処分により事業者に付与された地位を 存続させることは相当ではなく、取消さなければならないものと認められる。 本県は、全体の実施設計に基づいて詳細検討した環境保全対策についての事前協議を 行うことを、留意事項として附したということであり、全体の実施設計も示されていな いのであるから、これまで1~9で述べたように、事業者は留意事項2に基づく事前協 議が調わないまま工事を行っている。また、5~9で述べたように、留意事項4に基づ く環境保全図書の変更承認を得ないまま工事を行っている。 そして、事業者からは環境保全上の支障が生じるおそれはないとする根拠が示されて いない。 したがって、事業者の主張には理由がない。

なお、事業者は、「総論」として、予定されている本件承認処分の取消処分(以下、「本 件取消処分」という。)について、撤回制限法理により制限されるべきこと及び本件取消処 分が著しい行政権の濫用であることを主張する。 しかし、行政行為に瑕疵がある場合(事後的に瑕疵が生じた場合を含む。)や法律上の義 務に違反しているなどの違法状態がある場合には、法律による行政の原理に基づき行政庁は これを是正するのが大原則であり、撤回制限法理は、あくまでも行政に依存する私人の信頼 保護のための例外的法理であり、法律による行政の原理の下、積極的に法令を遵守し適法な 法状態を主体的に形成するべく義務付けられている国やあるいはその機関が、撤回制限法理 を主張することは背理であり認められない。また、撤回制限法理は、財産権の取得、取消時 までの財産的給付の保持、取消時以前の時期に係る金銭請求等に関して認められてきた法理 であり、公益保護のために事業について免許や資格を要求している場合について違法に付与 された免許や資格に基づく事業を将来にわたって継続させることを根拠づけるものではな い。さらに、事業者の提出した設計概要説明書の記載や承認審査段階における土質について の事業者の回答が実際の土質と異なることが判明したことや本件承認処分に付された留意事

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項を事業者が遵守しないという、事業者に起因する理由に基づく取消処分であり、また、事 業者が留意事項に違反して強行した工事にかかる支出を損害として主張しているものであ り、事業者には撤回制限法理による要保護性も認められない。さらに、事業者は国際社会に おける信頼の低下などを主張するが、事業者が撤回制限法理の根拠として主張しうる利益で はなく、また、かかる主張についての実証的根拠も認められない。なお、仮に撤回制限法理 を適用して利益衡量をするとしても、不利益処分の理由とされるのは、「災害防止ニ付十分 配慮」という要件の欠缺やこの要件の充足を担保するための留意事項の不履行、「環境保全 ニ付十分配慮」という要件の欠缺、「国土利用上適正且合理的ナルコト」の要件の欠缺であ るから、本件承認処分の効力を存続させることにより、人の生命・身体・財産等が重大な脅 威にさらされ、本県における国土利用の適正による健全な経済発展等が阻害され、代替性の ない大浦湾の貴重な自然環境が脅かされることになり、本件承認処分の効力を存続させるこ とによる重大な公益侵害が認められるものであるから、効力を消滅させるべき公益上の必要 性はきわめて高いものと認められ、他方で、普天間飛行場駐留部隊の沖縄駐留の必然性は認 められず県外・国外移設により解決できることや今日あらたに本格的・恒久的新基地を建設 することは米軍基地の過重負担を将来にわたって沖縄に固定化することを意味すること等よ りすれば辺野古新基地建設についてはもともと特別な公益性が認められるものではないか ら、撤回制限法理を適用して利益衡量をしたとしても、取消処分の制限は認められないもの である。 行政権の著しい濫用との主張については、本件取消処分は、処分要件を充足していないと いう違法状態及び事業者の義務違反(負担の不履行)という違法状態の解消のために行われ るものであり、法律による行政の原理に基づく行政庁としての当然の対応である。また、本 県は、唐突に取消処分に及んだものではなく、本県が事業者に対して、協議を行う前に工事 に着工することは事業者の義務違反であると繰り返し行政指導を行っても事業者が指導に従 わずに工事を続行し続けてきた結果、公益上看過しえない事態に至ったことから、本件取消 処分の判断に至ったものであり、さらに、本取消処分の判断に際しては、行政法学者及び自 然科学の各分野の学者に意見を求めてその専門的意見を十分に尊重して判断をしたものであ るから、行政権の著しい濫用との主張にも根拠がない。 以上のとおり、事業者が「総論」としてする主張にも理由がない。

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